インプラント治療とは?
インプラントとは歯が失われた個所を埋めるため、顎の骨に人工の歯根を埋入し、その上に人工の歯を取り付ける治療法です。人工歯をしっかり固定するので、自分の歯のように食べ物を噛むことができます。入れ歯のように外れたり、食べ物が挟まって痛みを感じたりする心配もありません。
インプラントが登場するまでは、失った歯の機能を補うには、ほとんどの場合、入れ歯やブリッジを使うしかありませんでした。しかし、入れ歯では自分の歯のようにしっかり噛むことはできませんし、ブリッジは両隣の歯に負担のかけてダメージを与えてしまいます。
その点、インプラントはしっかりと自分の歯のように噛むことができ、ケアの方法も自分の歯とほとんど同じです。「第三の歯」「最も天然に近い義歯」とも言われます。
当院では圧倒的シェアを誇るスイスのストローマン社製のインプラントを使用しており、治療にも素材にも拘っております。
インプラントの構造
現在最も普及しているインプラントは、上部構造(人工の歯)・アバットメント(支台部)・インプラント体(人工歯根)の3つからなります。それぞれについて説明しましょう。
1上部構造
歯の代わりになる部分で、人工歯・人工歯冠(じんこうしかん)とも言います。金属やジルコニアなどさまざまな素材で作られ、素材によって見た目や耐久性が異なり、価格にも差が出ます。
2アバットメント
支台部(しだいぶ)とも言います。上部と下部をつなぐ部分で、人工の歯の土台となります。ネジを使ってインプラント体に装着します。
3インプラント体
フィクスチャー・人工歯根(じんこうしこん)とも言います。顎の骨に埋め込み、しっかり義歯を支えます。
このようにインプラントは3層構造になっていて、しっかり人工歯を固定します。このため、安心して、どんな食べ物でも噛むことができるのです。
インプラント治療の進め方を簡単に説明しますと、失われた歯があった場所の歯槽骨(歯を支える骨)に穴をあけ、そこにインプラント体を埋入します。すると、数カ月後にインプラント体と歯槽骨が完全に結合・安定しますので、それからアバットメントを取り付け、その上に人工歯をはめ込みます。
チタンの発見によって可能になったインプラント
インプラントは直接、人の体内に埋め込められるので、使われる物質には厳しい目が向けられます。そのため、人工歯根の開発には長い年月がかかりました。
体内に埋め込む物質については、つぎのような条件が求められます。
- 毒性がない
- 発がん性がない
- アレルギー反応を起こさない
- 発がん性がないこと
- 代謝異常を起こさない
- 体内で劣化や分解・摩擦などが起きない
また、歯の代わりとなるのですから、強度と弾力性があり、安定した物質であることも大切です。この難題に多くの研究者が挑みました。真鍮や銅などが人工歯根の素材として試されましたが、どれもすぐに腐食して人体に悪影響を及ぼすことがわかり、なかなかうまくいきませんでした。
そして、ようやくチタンが人工歯根の素材として適していることが分かったのは1952年。当時、スウェーデンのルント大学の教授だったブローネマルクが最初に発見し、彼はこれを「オッセオインテグレーション(osseo-骨integration-結合)」と名付けました。
ブローネマルク教授は光学顕微鏡を使った観察で、骨とチタンが何のトラブルも起こさずに結合することを確認し、その後も十数年にわたって安全性のテストを繰り返しました。
その結果、チタンは拒否反応を起こすことなく人体と半永久的に結合する安全性の高い物質だと結論づけ、チタンを使ったインプラント・システムを開発しました。現在のインプラント治療は、この研究を受け継ぎ、発展させたものです。
歯を失ったときに
どうしますか?
もしあなたが歯を失った場合、失った歯の機能を埋めるために、どのような治療を選択しますか。
口の中の状況や体質などを考慮する必要もありますが、一般的には次のような選択があります。
- 入れ歯(義歯)
- ブリッジ
- インプラント
- 何もしない
どれが一番自分に合っているのか、お悩みの方も多いと思いますが、「何もしない」はちょっと困ります。失った歯をそのままにしていると、他の歯が失った部分をカバーしようとして動くなどするため、歯並びが乱れてしますし、噛む力にも影響を及ぼします。歯並びが乱れると、当然、歯垢も溜まりやすくなり、虫歯や歯周病の原因にもなります。
必ず、失った歯を補う手立てが必要となるのですが、自分の口の中の状態や希望に合わせて適切な方法を選ぶことが大切です。
それぞれ、どのようなメリットやデメリットがあるのかを、インプラント治療と比較する形で説明しましょう。歯を失った方で、今後の治療方針について悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
1部分入れ歯(義歯)
部分入れ歯には金属のバネがついて、人工の歯を健康な歯で固定します。
1本だけ欠けた場合だけでなく、複数の歯が欠けたときも、対応することができます。最大15本まで対応が可能です。
入れ歯の土台にはレジン製の「床(しょう)」という覆いがついていて、入れ歯(義歯)から出ている金属のバネ(クラスプ)を隣接する健康な歯に引っ掛けます。いつでも取り外しができますし、治療費も抑えられるのがメリットです。
しかし、健康な歯にバネを引っかけるのですから、どうしても歯はダメージを受けます。たとえば、入れ歯を取り外すたびに、バネで歯のエナメル質がはがれてしまいます。このため、どうしても歯が弱くなり、虫歯になりやすくなります。
また、入れ歯を固定するために健康な歯に余計な力が加わり、歯がぐらつき始め、最後には抜けてしまうこともあります。口を開けたときにクラスプが目立ってしまうこともデメリットだといえるでしょう。
その点、インプラントであれば、人工歯を直接骨が支えますから、隣接する歯に余計な力がかかりことはありません。自分の歯のように使え、外見上も全く違和感はありません。
2総入れ歯(義歯)
総入れ歯では、入れ歯を歯ぐき全体にかぶせます。上あごの歯の全部、下あごの歯の全部のほか、上下すべての歯が全部なくなったときに使われます。歯が全部なくなってしまうと、入れ歯をしっかり固定することができません。そのため、総入れ歯になると、噛む力が極端に弱くなってしまいます。
総入れ歯の方は、健全な歯と比べると噛む力が4分の1程度にまで落ち込むとされます。そうなると、固い食べ物を自由に食べることは難しくなります。発音もしづらくなり、はっきり言葉を話すこともできなくなってしまいます。
また、入れ歯をしっかりと固定することができないため、入れ歯をいれたときに、どうしてもの異物感を覚えてしまいます。上顎に総入れ歯をした場合、刺激に敏感な人は吐き気を催すこともあります。さらに噛み合わせが悪いと、痛みを感じる方もいらっしゃいます。
総入れ歯の最も大きな問題は、入れ歯で顎の骨が圧迫され、しだいに痩せてくることです。このため、総入れ歯は数年おきに調整をする必要があり、合わなくなってくると、新しい総入れ歯を作らなければならなくなります。
その点、インプラントであれば、人工歯を顎の骨に固定し安定するため、違和感なく食事をすることができます。食べ物が挟まることもほとんどありません。また、総入れ歯をすると、口元が老けてみえますが、口元をきれいに保つことができます。
3ブリッジ
ブリッジは、その名の通り、健康な両隣の歯を足場にして、橋をかけるように義歯をはめ込む方法です。足場となる歯も表面を削る必要があります。
基本的に健康保険が適用されるのっで経済的で、ブリッジの作製も比較的短期間でできます。しかし、欠点は義歯を固定するために、健康な歯を土台にしなければならないことです。そのために、健康な歯を削る必要があり、大きなダメージを受けてしまいます。
歯の表面はエナメル質という人の体の中で最も硬い組織で覆われています。エナメル質の下は象牙質という比較的柔らかな組織があり、エナメル質が薄くなってしまうと虫歯になりやすくなってしまいます。特にブリッジをしていると、ブリッジの根元や鳩の境目付近にプラークがたまりやすく、歯周病にもなる可能性が高くなります。
また、土台となる歯がいったん虫歯になると、治療のためにブリッジを取り外す必要があり、費用もかさんでしまいます。
その点、インプラントであれば、他の健康な歯に影響を及ぼすことはありませんし、噛む力が歯茎に適切にかかるので、健康な歯茎を保つことができます。
インプラントの
メリット・デメリットとは
インプラントのメリットとデメリットについて説明しましょう。
インプラントのメリット
1天然の歯に近い噛み心地が得られる
インプラント体(人工歯根)を顎の骨に埋入して人工歯を完全に固定するため、噛む力が天然の歯と変わりません。固い食べ物であっても、天然歯と同じように噛むことができますので、いつまでもおいしく食事を楽しむことができます。
2外れる心配がない
歯槽骨にぴったりと結合したインプラント体の上に支台部と人工歯が固定されているため、人工歯が外れる心配はほとんどありません。
固定されていない総入れ歯では、「外れるかもしれない」という不安がつきまといますが、そうした心配をすることなく、食事や会話など日常生活を安心して送ることができます。
3美しく自然な仕上がりが期待できる
人工歯根の上の支台部(アバットメント)の素材を選ぶことができるうえ、歯茎の下に隠れて目立たないように設計できます。
また、人工歯の素材も希望や予算に合わせて選ぶことができます。
4歯槽骨が痩せるのを防ぐ
噛む力が弱くなり、顎の骨にしっかり刺激が伝わらないと、骨はしだいに痩せていきます。このため、総入れ歯にした人は、どうしても顔がくぼんで老けた様相に変わってしまいます。
インプラントは歯槽骨の中にしっかりと埋入されているため、食べ物を噛むたび、顎に力が加わるため刺激が骨から脳に伝わり、歯槽骨が痩せることはありません。
インプラントのデメリット
いいところばかりのように思えるインプラント治療ですが、残念なことにインプラントにも短所はあります。治療を選択するときには、短所も知ったうえで検討することが大切です。
インプラントのデメリットについても説明しましょう。
1治療期間が長い
インプラント治療では、まずチタン製の人工歯根を歯槽骨に埋入しますが、チタンと骨が結合して安定するまで、個人差はあるものの、上顎で約6カ月、下顎で3カ月必要です。
しかし、インプラント治療法も進化していて、現在は「即時インプラント治療」という方法も可能になってきました。骨がしっかりしているなど条件がそろえば、1日で仮歯まで装着できます。
2治療を受けるのに条件がある
インプラントはどのような患者さまでも受けられるわけではありません。持病や全身の状態によっては、治療を受けられないことがあります。
治療を慎重に検討すべき病気には、糖尿病・腎(じん)不全・肝炎・心臓病・ぜんそく・リウマチ・骨粗鬆症(こつそしょうしょう)・高血圧などがあり、妊娠されている方も避けるべきです。
ただ、これはインプラントが特別なのではなく、抜歯などの口腔外科手術を受ける患者さま全員に言えることです。裏を返せば、手術が受けられる状態であれば、治療を受けることが可能です。
3インプラント周囲炎に注意が必要
人工歯根の上の支台部(アバットメント)の素材を選ぶことができるうえ、歯茎の下に隠れて目立たないように設計できます。
また、人工歯の素材も希望や予算に合わせて選ぶことができます。
4治療費が高額
インプラントは健康保険が適用されない自由診療のため、全額自己負担となります。費用も各歯科医院で自由に設定できるので、使う素材も費用もそれぞれ異なります。費用は人工歯の素材や診査・手術方法、オプション手術の有無などによって変わります。
ただ、インプラント治療は高額治療費として認められていますので、確定申告で医療費控除として税金の還付を申請することができます。
インプラント治療は確かに1回の費用としては高額ですが、しっかり固定されない入れ歯を数年おきに修理しながら我慢して使い続けるのと比べれば、快適さの差は歴然です。生活の質の向上の対価として、高いかどうかをぜひ比較・検討してみてください。
インプラント治療の進め方
インプラント治療は手術をともなう大がかりなものに成るだけに、事前に歯やの状態だけでなく、全身の状態も調べ、入念に準備をします。
実際に治療をどのように進めていくか、紹介しましょう。
1問診とカウンセリング
治療に当たっては、まず「問診」を行います。
現在の歯の状態だけでなく、過去にかかったことのある病気や現在治療中の病気に関すること、アレルギーの有無、喫煙や飲酒などの嗜好品、体質など、さまざまな点についてお聞きします。また、問診と並行してカウンセリングも行います。
これはインプラント治療に限らず、患者さんの症状や不便に感じている点、要望などを理解しなければ、患者様に満足いただける治療を行うことができないからです。治療には、歯科医師と患者さまも十分な信頼関係が欠かせません。
2全身の健康状態のチェック
インプラント治療は残念ながら、誰にでも受けていただけるわけではありません。糖尿病や腎不全、肝炎、心臓病などの病気がある方には、慎重に判断せざるを得ません。ただ、これは抜歯を含めて、外科的手術を受けるときの一般的な対応で、インプラント治療が特別なわけではありません。ですから、一般的な外科手術を受けても問題はない方であれば、インプラント治療は可能です。
年齢について上限はありませんが、若い人については注意が必要です。顎の骨は20歳前後まで成長を続けるため、成長が止まったことを確認しなければなりません。顎の骨が成長を続けているのにインプラント体を埋入してしまうと、インプラントの上を骨が覆ってしまうからです。
高齢者の方でも、手術を受けられる健康状態であれば、治療は受けられますし、実際に高齢者の症例も数多くあります。
ほかに気をつけていただきたいのは喫煙です。たばこを吸うと、歯茎や骨の血の循環が不安定となり、手術の後の傷口の治りが悪くなります。インプラントを長く快適に使っていただくためにも、禁煙をお願いしています。もし、禁煙が難しい場合には、最低でも手術数日前から手術後1週間くらいまでの間、禁煙していただきます。
3口の中の状態をチェック
適切な治療方針を決めるために、残された歯の虫歯の有無や進行度のほか、歯周病の有無、歯並び・噛み合わせの状態などを確認します。確認は視診と触診、各種機器を使った検査で行います。
治療では、インプラント体を顎の骨に埋め込むので、患者さまの顎の骨の状態を把握することが最も重要になります。骨にインプラント体を受け入れるだけの十分な厚みや高さ、固さ、形態がなければ、治療を行うことができません。
顎の状態が確認できたら、歯周病の検査です。多くの患者さんが、程度の差はあれ歯周病を発症しています。歯周病の検査は「歯周ポケット」の深さを測定することで行います。
歯周病がある場合は、歯周病の治療を優先させます。治療と並行する形で、インプラント治療に向けた検査や診断を行い、治療計画を立てます。虫歯がある場合も、先に虫歯の治療行います。
4エックス線による検査
顎の骨の状態を正確に把握するために、エックス線を用いた画像診断を行います。
エックス線の検査には主にパノラマエックス線検査とデンタルエックス線があります。パノラマエックス線は、口の中全体を確認する目的で行い、大きなフィルムを装着して外側から撮影します。デンタルエックス線は、一部分を局所的に検査するために用い、薄いフィルムを口の中に撮影します。
さらに口の中の精密で立体的な情報が必要になる場合は、エックス線CTによる診断を行い、顎の骨の状態を把握し、骨の質や骨の量、形状などを立体的に確認します。このほか、鼻の骨の位置や骨の周囲を通る血管や神経などの場所を確認します。
5患者さまのニーズを把握して治療計画を立案
インプラント治療にかぎらず、当院は患者さんのニーズに合った最良の治療を選択していただくということを重視しています。私たちは検査や診察の結果に基づき、治療計画を立てますが、最終的に治療法を決めるのは患者さまです。そのため、患者様が判断しやすいよう、ニーズを反映した分かりやすい計画を立案します。
治療では、インプラント体を顎の骨に埋め込むので、患者さまの顎の骨の状態を把握することが最も重要になります。骨にインプラント体を受け入れるだけの十分な厚みや高さ、固さ、形態がなければ、治療を行うことができません。
患者さまのニーズはさまざまです。早く抜歯してインプラントを入れ、しっかり噛めるようになりたいという人もいれば、できるだけ自分の歯を残してほしいと考える人もいます。費用面を気にする方もいれば、高価でもいいから、できるだけ自然にみせる歯にしてほしいという人もいます。
カウンセリングなどによってこうしたニーズを把握し、患者さま本人にあった治療法を提案できるよう努めてまいります。
6仮の補綴物の製作
治療方針が決まり、インプラント治療を始めることになれば、患者さまの歯型を採取して、診断用の歯型模型を製作します。これは実際の口の中の状態を詳細に調べるものです。残された歯の歯並びや噛み合わせ、歯茎の状態、顎骨の状態などを確認します。
もし、残っている歯の状態や歯並び、噛み合わせがよくない場合は、その改善も必要になります。そのうえで、最終的なできあがりを想定した仮の補綴(ほてつ)物を製作します。
仮の補綴物は、患者さんの口に装着してもらい、上下の噛み合わせや見た目などをチェックします。患者さまにも確認していただき、問題がなければ具体的にインプラント体の埋入一を決めることになります。
これはシミュレーションの一種で、これを行うことで、埋入するインプラント体の種類やサイズ、本数のほか、位置や方向も正確に決めることができます。事前の準備を入念に行うことで、手術の安全性を高め、時間の短縮も図れるのです。
7インプラント埋入のシミュレーション
インプラント治療を成功させるには、入念な準備が欠かせません。それは正確な検査や診断、綿密な治療計画、事前のシミュレーションなどです。
最近、「SIMPLANT(シムプラント)」というシミュレーションを取り入れたソフトウェアが開発されました。CT画像を基に、インプラント体埋入のシミュレーションを行うソフトです。
シムプラントを使ったシミュレーションでは、まず仮の補綴物を製作した後、それを基に「診断用ステント」を製作。それを患者さんの口の中に装着してもらい、しっかりと噛みしめた状態でCT撮影をします。
このCT画像をもとに、シムプラントを使って情報を画像処理し、コンピュータ画面上で、いろいろな角度からの画像を組み合わせて三次元的にインプラント埋入のためのシミュレーションを行います。
このように綿密な準備を行っておけば、無理のない計画をたてることができ、実際の手術では、時間的にも身体的にも患者さまの負担を軽減することができます。また、リスクをあらかじめ予想し、対応策も決めておくことでリスクを抑え、より安全な手術を行うことが可能になります。
8インフォームド・コンセントもしっかり
詳細な検査や診断に基づき、治療計画を立て、シミュレーションも行ったら、いよいよ実際のインプラント治療です。その前に、改めて患者さまにはインフォームド・コンセント(説明と同意)を行います。インプラント治療について、不安や疑問点があれば、どんなことでもお聞きください。少しでも分からないことは、何度でも確認することが大切です。
当院では、インフォームド・コンセントに十分な時間を費やし、実際の流れをビデオで見てもらったり、パンフレットや写真、実物の模型もお見せしながら、よりわかりやすい説明に努めています。
インフォームドコンセントが終われば、契約書や同意書などに署名していただきます。これは、説明に納得いただき、歯科医師を信頼して治療をお任せいただくという証しです。私たちも患者様の信頼に背かぬよう、最大限努めます。
9実際のインプラント治療の進め方
インプラント治療は患者さま一人一人、口の中の環境や治療の目的によって方法が異なります。患者様の顔や顎の形は当然違いますし、歯並びや噛み合わせ、骨の状態も異なります。それに加え、失われた歯の形や色によって治療方法も変わりますし、なにより重要なのは患者さまの歯に対する考え方やさまざまな事情です。
ファッションに例えて言えば、インプラントはレディメイド(既製品)ではなく、カスタムメイド(注文品)の治療です。患者様の希望によって、使用するインプラント体の素材や形状、長さ、太さ、表面加工の種類、埋入する本数、手術の方法などさまざまな選択肢の中から最適なものを選びます。人工歯も新しい素材が次々と誕生しています。
インプラントは何度も変えるものではありません、一度入れれば、その後長い付き合いとなります。それだけに、治療には慎重にあたる必要があるのです。当院では、手間も時間もかかけて、患者さまに納得いただける仕上がりを目指します。
インプラントの
手術法の種類
インプラントの手術法には、大きく「1回法」と「2回法」があり、1回法も「1ピース法」と「2ピース」に分かれます。それぞれの違いについて説明します。
1回法1ピース
1回法とは外科手術を1回で済ませるという意味です。また、1ピースとは、インプラント体とアバットメントが一体になって「1ピース」になっているということです。
外科手術でインプラント体を埋入したあと、アバットメントの先端が歯茎の上に飛び出している格好になります。そのままの状態で様子を見て、数か月後にインプラント体が骨と結合して安定すれば、人工歯を取り付けます。
顎の骨がしっかりと安定している患者さまに向いている方法です。
1回法2ピース
「1回法2ピース」も、外科手術を1回で済ませる方法ですが、埋入するインプラント体とアバットメントが別になっているので「2ピース」といいます。インプラント体の埋入の後、すぐにアバットメントの装着まで行い、「1回法1ピース」と同じようにインプラント体の定着を待ちます。
数カ月後、歯肉の上に突き出たアバットメントに人工歯を取り付けます。
2回法
2回法は、インプラント体の埋入手術の手術の後、アバットメントと人工歯の装着時にも手術を行うので「2回法」と呼びます。
2回法では、インプラント体の埋入手術をした後、一度を歯茎をかぶせ縫合します。以前のインプラント治療では2回法が主流でした。なぜなら、歯茎をかぶせた方が感染リスクが抑えられると考えられていたからです。
しかし、最近は手術や処置の方法も進化し、1回法も2回法も感染リスクは変わらないと考えられるようになりました。このため、最近は体への負担が軽い1回法が主流になっています。
日常の手入れで
気をつけること
インプラント治療は、人工歯の装着で終了ではありません。そこから、いかに人工歯を長持ちさせるかが大切です。決して安価ではないインプラント治療です。
日々のケアやメンテナンスを怠らず、大切に使い続けましょう。
インプラントも日常のお手入れとメンテナンスが大切
インプラントは人工歯といっても、きちんと口の中をケアしないと、インプラント周辺に歯垢がたまり、炎症を起こしています。歯茎の炎症から結局、歯周病になってしまいます。歯周病がひどくなると、歯が抜けてしまいますが、インプラントも同じように根元から外れていまうことがあります。
歯のケアの方法は自分の歯と変わりありません。歯ブラシや歯間ブラシ、デンタルフロスやデンタルリンスなどを使って歯垢を落とし、歯や歯茎を清潔に保ってください。
また、歯科医院へ定期的に通い、歯やインプラントのクリーニングやメンテナンスを受けてください。
油断できない
インプラント周囲炎
インプラント治療を受けた後、安心して口に中のケアを怠っていると、 「インプラント周囲炎」になることがあります。インプラントのトラブルで最も多いのが、この「インプラント周囲炎」です。
インプラント歯周炎とは
インプラントで装着された人工歯は、虫歯菌の働きで溶かされることはなく、虫歯になる心配はありません。しかし、歯茎や顎の骨は、やはり手術によってダメージを受け、健康の歯の歯茎や骨に比べると、どうしても細菌に対する抵抗力が弱くなってしまいます。このため、歯周病菌に侵され炎症を起こすと、急速に病状が悪化し、骨が破壊されていきます。
症状としては、歯周病とほとんど変わりませんが、炎症がさほどひどくなく、歯のぐらつきも少ないまま進行していきます。病気の進行速度は天然の歯と比べて非常に速く、歯周病の10~20倍の速さで症状が悪化していくと言われています。
インプラント周囲炎の原因
インプラント周囲炎の原因は、手術前に完治しなかった歯周病や、インプラント治療後の手入れ不足だと言われています。また、歯ぎしりやくいしばりによって、人工歯に過大な力がかかると、インプラント体もダメージを受け、発症の引き金になるともされます。
いずれにせよ、歯周病と同じ歯周病菌の増殖が原因となります。
インプラント周囲炎の治療
インプラント周囲炎の治療は、歯周病と同じような治療になります。症状の進行の度合いは、歯周ポケットの深さや出血、骨の状況などをみて診断します。
インプラント歯周炎も、進行するに従って歯周ポケットが深くなっていきますので、軽症の場合は、歯周ポケットの汚れや歯石の除去、薬による消毒などを行います。
しかし、歯周病菌が骨にまで達し、骨の破壊が始まると治療は困難になります、歯周ポケットの清掃のほか、抗生剤の服用も必要となり、最悪の場合、インプラント体を撤去しなければならなくなります。
インプラント周囲炎の予防
インプラント周囲炎の原因は歯周病菌です。インプラントを引き起こす歯周病菌からインプラントを守るためには、正しいケアとメンテナンスが必要です。
毎日、正しい歯磨きを続け、歯垢や歯石を付着させないようにしましょう。また、歯科医院でメンテナンスを定期的に受け続け、口の中を清潔に保つことも大切です。患者さまと歯科医師や歯科衛生士が協力してインプラント歯周炎を予防しましょう。
インプラントの成功を妨げる喫煙
喫煙によるさまざまな害が指摘されていますが、インプラント治療にとっても喫煙習慣はリスクとなります。
インプラントの手術は成功率が高く、9割近くは成功すると言われますが、まれにチタンが骨と結合せずインプラント体が脱落してしまうことがあります。
この原因としては、患者さまの骨がインプラントと結合しにくい性質であることも考えられますが、多くの場合、歯周病菌などによる感染症だと言われています。
インプラント体の周囲にも天然の歯と同じように歯垢が付着し、歯肉炎など細菌による感染症を引き起こします。これが進行していくとインプラント周囲の骨は歯周病菌に破壊されて痩せてしまい、最悪の場合、インプラントが外れてしまうのです。
特に喫煙の習慣がある方は、免疫力が低下して歯周病菌などによる感染症のリスクが高くなりますし、たばこに含まれるニコチンなどの成分によって血流も悪くなります。このため、 たばこを吸わない方と比べてインプラントが骨と結合しないケースが多くなります。
知っておきたい喫煙のリスク
たばこに含まれるニコチンなどは、私たちの免疫をつかさどる白血球の働きを弱めるため、喫煙を続けていると歯茎に炎症が起こりやすくなります。
1血流の悪化を招くニコチン
たばこの煙に含まれる主成分のニコチンは、体内に入ると血管を収縮させます。煙の中には一酸化炭素も含まれ、一酸化炭素は血液が酸素を運ぶ能力を妨害し、血流を悪くします。
こうしたことにより、骨や歯周組織へ酸素や栄養が行き届かなくなり、インプラントを支える骨や歯周組織が弱ってインプラントが外れてしまうのです。
喫煙によって血流が悪くなると唾液の分泌量も低下します。唾液には口の中を洗い流して細菌の繁殖を抑え、虫歯菌に溶かされた歯の表面を修復するなどの働きがあります。その唾液の分泌量が減ると、当然、虫歯や歯周病になりやすくなります。
たばこを吸う人は、たばこを吸わない人に比べて歯周病やインプラント周囲炎になるリスクが2~6倍あると言われます。そして、そのリスクは本数が多いほど高まり、1日10本以上吸う人は高リスクとなります。
2喫煙が原因で手術が失敗することも
インプラント治療を始める前に、たばこを吸っている方は禁煙するか、少なくとも本数を減らしていただかなくてはなりません。喫煙習慣はインプラント治療にとって、大きなリスクとなるのです。
特に手術直前後の喫煙は傷口の治り具合に悪い影響を及ぼしますので、最低でも1週間程度、できれば手術後8週間程度は禁煙していただきたいと思います。
インプラント治療は9割以上は成功すると言われますが、非喫煙者と喫煙者の間では成功率に大きな差が出るとの調査結果もあります。ある調査では喫煙者への手術が失敗した割合は11.28%となり、非喫煙者4.76%の2倍から3倍になったそうです。
また、口から出た煙を再び鼻腔や副鼻腔から吸い込むことで、骨や粘膜にさらに悪影響を与えるので、上顎にインプラントを埋入する場合は、下顎の場合よりリスクが高まります。
歯を守るためにも禁煙を
たばこはの害は、インプラントや歯に限らず全身に及びます。血管を弱らせ、末梢の細胞などに栄養や酸素などを届きにくくするので、さまざまな悪影響が現れるのです。
インプラント手術を成功させ、その後も長持ちさせるため、また、残っている歯や歯周組織を健康に保つためにも、禁煙を心がけてください。
長年の喫煙経験で、なかなかたばこがやめられないという人もいるかもしれません。しかし、いつまでも自分の歯を守り、おいしい食事を楽しむため、禁煙に挑戦してみましょう。方法が分からない、自信がないと言う方は、歯科医師や歯科衛生士、クリニックの禁煙外来などに相談するといいでしょう。